上に、なにかいる。
数年前の夏、昼間、部屋でだらだらしていたときの頃だ。
この頃まだ、猫は古参が二匹。ミクちゃんたち親子が四匹(♀)。
なな坊(茶白トラ♂)。かんちゃん(黒白トラ♂)だけがお家にいた。
季節は真夏。
猫は思い思いの場所で涼を取っていた。
人間様は脆弱な生き物なので文明の利器、エアコンでクーラーの風を浴びようとリモコンを手に取り、見上げた先にそれはいた。
キラリと光る瞳。
見下ろすは、下等なる生物。
君臨するは肉球を持つしなやかな四肢を持つ獣。
かの生き物の名は、ねこ。
高き場所に座し、下僕たる人間を見下す姿はまさに人類の支配者。
どうやって登ったか、そこまで到達したのかなど考えるだけ無駄。
人類にはどうあがいても不可能な跳躍をもって、不安定な足場から跳んだのであろう。
それはいい。
お猫様とは高い場所を好む高貴なる存在である。
それはとは別に、小生はかの姿を見て戦慄した。
支配者たる獣が座すその場は文明の利器、エアコン。
惰弱な人類が生き延びるために生み出した神器の一つだ。
買い替えたばかりのそれは真新しく輝き、ホコリもまだ溜まっていなかった。
親の金で買ってもらったそれは、フィルターが上についているタイプだった、はずだ。
そう、まさに、いま、お猫さまが、座している、そこに。
小生の身体の毛穴という毛穴から汗がにじみ出た。
暑いからだけではない。
頭の中ではフィルターの買い替え代金のついての計算が勝手に始まっていた。
……………
答えが算出されたと同時に、小生は現実を直視することを止めた。
エアコンのリモコンを操作しクーラーをつけて、ベッドに倒れ込み、まぶたを閉じた。
数日後、家族によってフィルターは無惨な姿になって発見され、直視せぬよう逸していた現実と直面することになった。
フィルターは2枚、駄目になった。
見事な穴が空いていたのである。
メーカー純正品なためお値段がお高めであった。
実家に寄生している身なので家族の懐からの出費が生じた。
現在ではエアコン本体にダンボールで猫返しつけて、防止している。