現実感がない
懐いてくれていた野良猫が朝死んでいた。
家の近くの路肩で倒れているのを近所の人が発見し、教えてくれたのだと家族から聞いた。
おそらく自動車に撥ねられたのだろうと思う。
まだ、生まれて半年もたっていない子猫だった。
栄養失調が育成感環境が悪かったのか、我が家の庭の前に出没するようになった頃から片目の様子がおかしかった。
いよいよもって片目の様子がおかしかったので、捕獲しようと試みた。
人馴れしていない野良は子猫だろうと牙をむく。
本当に小さな子猫はまだ怖いものがわかっていないのか触れることはできるが一匹で歩き回れるぐらいになる頃にはすでに人に対して恐怖心をもっている子たちが多い。
威嚇の声をあげるし、容赦なく爪を突き立ててくる。
でも、その子は違った。
普段の行動をみていてもおっとりしている猫だなと思っていたけれどもじっさい捕獲したときの抵抗も弱くて、なんども触れるようになると慣れていった。
私や(主に)家族が機会があれば目を拭き、目薬を指していたが、けっきょく片目は失明してしまったようで、両目の色が異なるようになってしまった。
これ以上、家にお猫さまは入れられない(まぁ、その後増えたんですけどね)
そう家族から苦言を受けていた。
でも、やはり情がわいてしまった。
庭に現れたときだけ、かまうようになってしまった。
他にも柄のよく似たきょうだいねこをつれてくることがあったが、その子だけは人を警戒することはなかった。
抱き上げられることは嫌がったが、撫でればごろごろ喉を鳴らし、体を横たえお腹を見せた。
甘えたように鳴くこともあって、名前をつけて、かわいがるようになってしまった。
まだ、小さな猫だった。
半年も生きていない。
事故に合う前の日にお腹をなでたらひっくり返ってきもちよささそうに喉を鳴らしていた。
覚えている。
手にぬくもりと毛ざわりの感触が残っている。
朝叩き起こされて、告げれた言葉を寝ぼけてきたこともありよく理解できなかった。
それに以前、といってもかなり昔。
家猫が外にでかけて行方不明になり、しばらくして家の近くで冷たくなっていたことがあった、らしい。
いなくなってしまった子だと動物霊園に連絡を取りお経を上げてもらい供養してもらった。
次の日。
行方不明になっていた猫が帰ってきた。
ホラー展開ではない。
五体満足元気満々で生きていた。
つまり、弔った猫は別猫で勘違いしてしまっただけだったのだ。
そんな話をきいたことがあったし、似た柄の猫ならよく見かけることがあったから(ちがう)と心のなかで否定の言葉が出た。
家族はすぐに動物霊園に連絡していた。
電話の内容には事故にあった猫の悲惨な状態の話もあって、情けないけれども怖くなって逃げるように二度寝した。
怖かった。
つい昨日まで元気に遊んでいたあの子が物言わぬ肉の塊になっていることが。
血だらけて苦しんでしんでいった様子を見るのが。
情けなくて薄情な自分に嫌気が差す。
けれども何年たとうが何匹の猫たちと過ごそうが
結局、私が現実逃避している間に霊園の人に引き取られ火葬されたのち、供養された。
その話を聞いた時もまだ、信じていた。
勘違いだったということを。
ひょっこり現れるんじゃないかと。
違う猫を供養してたのではないかも。
でも、いつも庭にくるあの子のきょうだいたの中に、あの子はいなかった。
よく似た柄の面差しの子はいる。
色合いも顔も似ている。
でも、両目とも綺麗で失明していない。
鳴き声が似ている、でもあの子ではない、
写真もろくにとっていない。
記憶の中にだけ、あの子がいる